これの続き。
昨日は静岡へ移動し、海を見て、酒を飲んだ。こうやって要約してしまうと密度のうっすい一日のように聞こえてくるから不思議である。
要約するとうっすい一日であったとしても、けっこうな距離を歩き回り、しまいには酒を飲んだので夜には気持ちよく眠りにつき、目が覚めた頃には朝の7時になっていた。
せっかくの旅先なのだから今日も朝から元気に歩き回りたいところだが、三方を木の壁に囲まれた暗いドミトリーがすこぶる居心地がよく、なかなか布団から出られない。こうして布団でくねくねしていたらすっかり8時になってしまっていた。流石にそろそろ布団から這い出て活動開始を試みる。
やはりこの宿、雰囲気があまりにも良すぎる。ドミトリーなので完全なプライベートは保証されないが、この雰囲気を味わえて1泊4000円なのだから上出来である。快活泊より格段に良い。
純喫茶部分へ降りて行けば500円でトーストとコーヒーのモーニングもいただける。追加料金を払うとトーストを様々なメニューへ変更できるそうなので課金してピザトーストへアップグレードした。うまい。
モーニングをいただいて宿を出る頃にはもう9:30になってしまっていた。大学生ぐらいの頃までは早朝から宿を出てあっちこっち動き回っていたのにたった数年でこうである。これが加齢という奴なのか?
今日の第一目的地は草薙なのでひとまず静岡鉄道へ乗るために新静岡駅へ向かう。もちろん首にはカメラをぶら下がっている。
平日の午前10時前ともなると町はすっかり朝のピークも終わっているものの、町は人がたくさん歩いていてしっかり賑わっている。古い記憶しか無かったので割と舐めてかかっていたのだが、静岡はけっこう都会だ。
新静岡駅からは静岡鉄道を走る2両編成の電車に揺られながら草薙へ向かう。草薙にはJRで行ったほうが早いし、安いし、ヒトヤ堂から新静岡駅より静岡駅の方が近かったのだが、今回は『2両編成ぐらいの短い私鉄電車がトコトコ走る町に行きたい』が故に静岡へ来たのを忘れてはいけない。
草薙駅周辺は静岡市の副都心的な立ち位置のようで、近年はデカいビルが建ち始めているという事前情報を得ていたので比較的都会的な町なのかと思っていたが、どちらかと言えば開発が盛んなのはJR駅周辺の地区のようで、静鉄の駅周辺は郊外の穏やかな住宅街の様相を呈している。駅から2〜3分程度北に歩くとそこそこデカい道路(南幹線とか呼ばれるらしい)が東西に走っており、車がビュンビュンと行き交っている。思ってたよりお上品タウン感は無いかも。
ちなみに、今回草薙を訪れたのもある種聖地巡礼の側面も兼ねている。昨日は『レプリカだって、恋をする。』*1の作中に登場する用宗を訪れたが、草薙はレプリコと同じ作者の2作目、『義妹5人いる』*2の作中に登場する。綺麗な青春小説的なレプリコとはまたテイストが違ってコメディ色が強めの作風で面白いのだが、それはまた別の話。
用宗海岸だけではなく通学路にあるスーパーマーケットの田子重や静岡パルコのサイゼリヤなど、作中で超ニッチ聖地を多数生成していたレプリコに引き続き、ギマイルでも地元に実在する何気ないあれやこれが作中に登場している。
今日は作中で『静岡の自由が丘』と称されていた草薙の超ニッチ聖地を見たり見なかったりしつつ徘徊する事にする。
南幹線を越えると町は住宅街の様相を呈してきた。平日真っ昼間の住宅街は忙しい朝を終えて長閑というか、脱力感といったような…… そんな感じの雰囲気が漂っている。散歩する幼稚園児の集団を見たのなんていつぶりだろうか。こんな景色は実家にいた頃も長野に移り住んでからもきっと近くはにあったはずなのに、随分と久しぶりに感じてしまうのは平日のこんな時間に外を歩いたりして来なかったからだろう。学生時代の昼間は学校へ、就職してからは会社へ籠っていた頃、その外にはきっと同じ景色があったはずだ。いつもそこにあるはずなのに見ない・見られない景色ってもっとあるんだろうな。
坂の上の方を目指しながら適当に歩いていたらひょうたん塚公園にたどり着いた。入口の柵が名前に因んだひょうたんの形になっており、非常に凝っている。ひょうたん『塚』という名前の通り、この公園の北半分には前方後円墳が埋まっているが、それ以外は特筆すべき所もそんなに無い普通~~~の公園なのだが、なんとこの公園も先述の"ギマイル"の作中に登場している。*3それぐらいローカルな要素が散りばめられた作品なのだ。
先程見かけた散歩の幼稚園児集団はこの公園に遊びに来ていたようで、古墳の方では園児が元気に戯れていた。流石にその中にカメラを首からぶら下げた異常独身男性が入ってゆくのはまずいので、古墳の方はスルーしてさらに坂の上を目指して歩いてゆく。
坂の上には静岡県立大学のキャンパスがあるためか、昼間の住宅街ではあるが歩行者はけっこう多い。『静岡の自由が丘』と言うにはなんかちょっと違う気はするが、お上品そうな住宅街と学生街の要素が混ざりあった独特の雰囲気が漂っていてなかなか良い。
静岡県立大学の隣にはどでかい芝生広場がある。ここも県立大の敷地なのだが、なんと地域住民に向けて開放されている。太っ腹すぎないか。ド平日の昼間なので年齢層は高めで、暇を持て余した爺ちゃん婆ちゃんズがサッカーしたり絵を描いたりして自由に過ごしている。おれも老後にはアクティブ爺さんになりたい。
ところで、この広場は静岡県民から高い知名度を誇る映像の撮影地というのは皆さんご存知だろうか。その映像というのはこれ。
主に静岡で店舗を展開しているお弁当どんどんのCMである。このCMは35年近くこのままで放映され続けていて、静岡県民のDNAへ完全に定着している…らしい。要は有名ローカルCMである。
静岡県民に限らず、ニコニコ動画の音MADで見覚えがある人もいるのではないだろうか。そんなCMの撮影地がこの芝生広場なのだ。


完全に同じ画角。背景の木々がCMに比べて成長している所に35年の年月を感じる。自分は静岡に何の縁もゆかりも無いが、こういったニッチな聖地巡礼は楽しいもの。
芝生広場の後ろには太陽をたくさん浴びて橙色に色づいた紅葉があった。長野ではすっかり寒くなり紅葉の季節も終わってしまっていたが、さすがは暖かい土地、まだまだ秋っぽい景色を見ることができてご満悦。
行きとはまた別の経路を辿りながら山を降り、再びひょうたん塚公園を通り過ぎて今度は東側へ向かう。ちょうどいい所に公園があったので、ベンチに腰掛けて10分ほどぼんやりとする。旅先で突然こういう時間を作れるのも他人を気にしなくていい一人旅だから許される贅沢ではないだろうか。これだから一人旅はやめられない。
しばしぼんやりした後、そろそろお昼時なので昼飯を食いに行くことにする。草薙には目を付けていた店があるのだ。
川の両岸で高低差がある道路に出会った。この道路の両端では同じ高さに戻るというのも面白い。
さっき休んだ公園の近くを通っていた川が地形を侵食したのか、このあたりが谷のようになっていて再び上り坂が現れる。横浜の景色を彷彿とさせるような斜度の道路もそこそこあって、幼少期の記憶がちょっとだけくすぐられる。実家から最寄り駅までは川沿いの平坦な道だったが、小学校の学区は坂があちこちにあったので小学生時代は山を越え谷を越え友達と遊びに行っていたのだ。

昼飯を食いにやってきたのはここ、にこにこ寿司草薙店。草薙店と名乗っているが、他に店舗があるわけでは無さそう。もしかすると昔はあったのかも。ここはなんと、"ギマイル"の作中でも家族が増えた初日の気まずいお食事シーン*4のお供に登場している。ローカル要素のカバー範囲が広すぎる。
ここに来たのは作中に登場したので聖地巡礼も兼ねているが、単純に静岡の海鮮を食べておきたかったのだ。調べた感じだと味の評判も良し、どう考えても観光客を釣り上げられる立地でもないのでお値段も優しいと来ればこれ以上の選択肢はない。


いざいざ入店…と思ったら入口にはこんな看板が。限定ならば折角だしまずはおまかせ8貫から注文。なんとランチの時間帯には味噌汁までサービスで付いてくるらしい。本当にこれが550円でいいんですか????? マジで言ってます?????

他にも様々な寿司をいただいてご満悦。色々食べてご機嫌になってもお会計は2200円で本当に素晴らしい。静岡へまた行った時に再訪したい店がまた増えてしまった。
腹を満たした後は静鉄の線路に沿って歩きながら草薙駅へ戻る。沿道の家庭ではごつ盛りがプランターとして元気にセカンドライフを送っていた。
静鉄は日中でも10分弱に1本の間隔で走っているので、沿道を歩いているとそこそこの頻度で電車に追い抜かれたり電車とすれ違ったりする。稀に線路上を走行する人間も来る。短編成高頻度運転は利用者の視点では便利だが、運転手や車掌(ワンマン運転なら不要だが)といった人的リソースが豊かでないと成り立たないけっこう贅沢な仕組みだ。グループ会社の自動車販売業がすこぶる儲かっていて超健全経営の静鉄だからこそ実現できる運行形態だと思う。
草薙駅から再び静鉄に乗って2両編成に揺られながら新静岡駅へ戻ってゆく。最近でこそスタイリッシュな新型車両が導入されてシュッとした感じになってきたが、駅に残る構内踏切からはまだまだ古き良き都市鉄道の雰囲気を感じることができる。


折角ならば静岡の作品を静岡で買おうという事で新静岡セノバのジュンク堂3巻以降を買いそびれていた『レプリコ』の続きを買い、地下のしずてつストアで母親からリクエストされていた土産のみかんを買ってからしばらく館内を徘徊していたら御殿場高原ビールの店舗へ吸い込まれてしまい、気がついたら俺の手にはビールが。平日の皆さんを横目にビールを飲むのは気持ちがいい。昼間から酒を飲めるのは車を使わない旅行の醍醐味である。
静岡を撤退するまで少し時間が余ったので静岡駅前にある水族館のスマートアクアリウム静岡へ行くことにした。ここは静岡松坂屋のワンフロアを丸ごと使った百貨店内という頭のおかしい立地の水族館である。家具のフロアからエスカレーターを上がると水族館、そのまままたエスカレーターに乗るとレストランというのはかなり異様な光景で面白い。
この頭のおかしい立地の水族館は来場者が後から入場料を決める『ポストプライシング』なる頭のおかしい制度を平日に実施している。つまり、その気になれば0円ですることもできてしまう。このシステムを導入したところ、平日の入場者数が導入前に比べて5倍になったというのだからすごい話である。
館内は壁に埋め込まれた水槽が並んでいるのが主で、よくある水族館のようにどでかい魚が泳ぐどでかい水槽とかは無い。流石に百貨店のワンフロアにそんなんがあったらびっくりする。
海の魚はデカい奴らが多いからか、淡水魚比率が多め。メダカや金魚といった身近な魚たちがいるのも面白い。館内には魚だけがいる訳ではなく、カエルや亀、カメレオンなんかもいる。水際に生息しているのでまあ広義の水族なのかも。
みんな大好きチンアナゴもいる。写真を撮っていたらメンチ切られてしまった。
館内の展示は全体的にデザイン性が強くて、魚がなんも分からなくても見ていて楽しい。よくある水族館の静かな雰囲気とは違って華やかな感じなのは珍しいかもしれない。
ここスマートアクアリウム静岡もレプリコの作中に登場する*5縁もあってか、館内にサイン本が展示されていた。サイン本を眺めていたら近くの水槽で時間限定のドクターフィッシュ体験が始まるとのことで、折角なので俺の手も餌食にすることにした。
俺の手、ドクターフィッシュくん達から大人気 pic.twitter.com/WF3bAM98KK
— 西町 (@Ni4mc) November 21, 2025
ドクターフィッシュ達がいる水槽へ手を突っ込むと彼らが続々と群がってくる。ちょっとくすぐったい。待てよ?ドクターフィッシュがたくさん食いつくという事は、俺の手は…
ドクターフィッシュ達へ俺の手を食わせていたらいい時間になったのでスマートアクアリウム静岡を撤退して西日が眩しい静岡駅から熱海行きの東海道線へ乗り込む。せっかくの大連休なので静岡だけで帰るつもりはさらさら無い。今夜の目的地は横浜の無料宿泊施設だ。実家と称される事もある。
もう少し遅くまで静岡に滞在していたかったが、誕生日&帰省のタイミングなのでなんと親が焼肉を奢ってくれると言うではないか。流石に他人の金で食う焼肉の引力には勝てず、泣く泣く静岡を後にする。
静岡、とても良い所だった。きっと遠くないうちに再訪するだろうという気がしている。次はいつ来られるだろうか。次に来た時はどんな所を訪れようか。さっき出たばかりだと言うのに、東海道線の車内で次の訪問時の事ばかり考えていた。


































































































































































































